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東京地方裁判所 昭和36年(レ)114号 判決 1963年8月20日

控訴人 小木曾保蔵

被控訴人 竹中定一

引受参加人 多田智恵子

主文

一、原判決を左のとおり変更する。

二、控訴人は被控訴人に対し、昭和三三年三月一七日から昭和三六年三月七日まで一ケ月金五〇〇円の割合による金員を支払うべし。

三、控訴人は引受参加人に対し別紙目録<省略>記載の土地を明渡すべし。

四、被控訴人並びに引受参加人のその余の請求を棄却する。

五、訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

六、この判決は被控訴人及び引受参加人において、その勝訴部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。引受参加人の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、当審で控訴人に対する請求の趣旨として

「控訴人は被控訴人に対し、昭和三三年三月一七日から昭和三六年三月一一日まで一ケ月五〇〇円の割合による金員を支払え。」と述べ、これ以外の請求については脱退し、控訴人はこれに同意した。引受参加人は控訴人に対する請求の趣旨として

「控訴人は、引受参加人に対し、別紙目録記載の土地を明渡し、かつ昭和三六年三月一二日から明渡ずみに至るまで一ケ月金五〇〇円の割合の金員を支払え。訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求める、と述べた。

当事者双方の事実上並びに法律上の主張は、引受参加人は「引受参加人は昭和三六年三月一一日被控訴人から別紙目録記載の土地(以下本件土地という)を買受け、その所有権を取得した。よつて控訴人に対し所有権に基づいて本件土地の明渡を求めると共に昭和三六年三月一二日から右明渡ずみに至るまで相当賃料額である一ケ月金五〇〇円の割合による損害金の支払を求める。その余の主張は被控訴人が原審でなしたところと同一である。」と述べ、被控訴人並びに引受参加人は、控訴人の当審において主張した抗弁に対し、控訴人は当初「本件賃貸借契約は建物所有を目的とするものではない」と主張し、その後これを「本件賃貸借契約は建物所有を目的とするものである」と変更した、これは自白の撤回であり、異議がある。本件土地賃貸借契約は建物所有を目的とするものではない。

賃貸借期間満了後控訴人が本件土地の使用を継続していた事実、控訴人が本件土地上に建物を建築するのを被控訴人が妨げた事実、本件土地がこれに隣接する控訴人主張の控訴人所有の土地と一体となつて建物の敷地となつている事実はいずれも否認する、と述べ、

再抗弁として、仮りに控訴人が期間満了後本件土地の使用を継続していたとしても、被控訴人は控訴人に対し、昭和三三年七月一三日頃到達の郵便で控訴人から郵送された賃貸借期間満了後の地代を返送すると共に賃貸借契約が終了した旨を通告し、使用継続に対し異議を述べた。

被控訴人は賃貸人の地位を斎藤株式会社から承継したものであるが、その時賃貸借期間については同会社において知る者もなく、かつ、賃貸借契約書が紛失していてその引渡をうけることができなかつたため、期間満了の時期を明確に知ることができず、その後控訴人にも問合わせたが、控訴人はこれを隠して教えてくれなかつたところ、その後右会社において契約書が発見されその引渡うけはじめて賃貸借期間を知り、その時はすでに期間が満了していたが、直ちに右通告をなしたものであつて、被控訴人としては期間の満了時を明確に知つておれば直ちに異議を述べたのであるが、右の如き事情のためその機会を失つていたものである、かかる場合においては右通告をもつて遅滞なく異議を述べたものと云うべきである。したがつて、たとえ本件賃貸借が建物所有を目的とするものであつても建物がなかつたから契約は更新されることなく期間の経過とともに終了した。と述べた。

控訴人は、本件賃貸借契約の期間は、昭和一三年三月一七日から昭和三三年三月一六日までであることならびに引受参加人が被控訴人から本件土地をその主張の日に買受け所有権を取得したことは認める。と述べ、抗弁として、本件賃貸借契約は建物所有を目的とするものである。賃貸借期間が満了した昭和三三年三月一六日後も控訴人は本件土地の使用を継続しており、かつ、建物がある場合に該当する。即ち、控訴人は期間満了後も引き続き賃料を支払つており、本件土地上には建物が現実には存在しなかつたけれども、それはかねて控訴人において本件土地を不法に占有していた訴外越尾照一を相手どり、土地明渡の訴訟を提起し、昭和三二年五月三一日東京高等裁判所において和解が成立し、これに基づいて同年一二月末頃右越尾から明渡をうけはじめて控訴人において現実に本件土地の使用ができるようになり、その頃控訴人は本件土地上に家屋を建築すべく先ず四坪余りの仮小屋を建てたが、昭和三三年夏の台風で壊れ、ついで被控訴人において本件訴訟提起に伴い本件土地について仮処分の執行をしたので、その後は建物を建てることができなかつたものである。しかしてこれは被控訴人において控訴人が本件土地に建物を建築するのを妨げたものというべきであるから、期間満了後も継続して本件土地を使用しかつ建物が存在したのと同様に解すべきである。

仮りに、然らずとするも、当時本件土地は隣接している控訴人所有の土地一二八坪と一体となつて同土地上にある建物の敷地となつているから、本件土地上に建物があることになる。と述べ、被控訴人並びに引受参加人の再抗弁に対し、昭和三三年七月一三日、被控訴人が賃料を返送して来たことは認めるが、その他の事実は否認する。と述べた。

以上の他は、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

証拠関係<省略>

理由

一、控訴人が昭和一三年三月一六日訴外斉藤株式会社から本件土地を期間は昭和一三年三月一七日から昭和三三年三月一六日までと定めて賃借したこと、被控訴人は昭和二二年七月二二日同会社から本件土地を買受け、同時に同会社と控訴人間の右賃貸借契約について賃貸人たる地位を承継したこと、引受参加人は昭和三六年三月一一日本件土地を被控訴人から買受け、その所有権を取得したことはいずれも当事者間に争いがない。

二、被控訴人並びに引受参加人は、控訴人は最初本件賃貸借契約は建物所有を目的とするものでないと主張しながら、その後建物所有を目的とするものであると主張した、これは自白の撤回であり異議があると主張するのでこの点を検討するに、原審において被控訴人は最初本件賃貸借契約は建物所有を目的とするものであると主張したところ、これに対し控訴人は「本件賃貸借契約は本件土地上に建物を建築するもせざるも控訴人の意のままとなす旨の約であつた」と主張したところ、ついで被控訴人は本件賃貸借は建物所有を目的とするものであるとの右主張を撤回した。ところがその後控訴人は当審において当裁判所の釈明に答えて「建物所有のための契約であつた」と主張したものである。しかして右訴訟の経過から明らかなとおり、控訴人の原審における右主張からは本件賃貸借の目的が如何なるものと主張するのか明確でなかつたため、当審においてこれを明確にしたにすぎず、従来の主張を撤回したものではないから、自白の撤回であるとの被控訴人並びに引受参加人の主張は理由がない。

そうすると本件土地の賃貸借契約について控訴人は建物所有を目的とするものであると主張し、被控訴人並びに引受参加人はこれを否認するところとなるが、成立に争いのない甲第一号証によれば、本件土地の賃貸借は木造建物の所有を目的とするものであることが認められ、原審における控訴人尋問の結果のうち右認定に反する部分は甲第一号証、並びに当審における控訴人尋問の結果に照らして措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。してみれば本件土地賃貸借関係については借地法の適用があることとなる。

三、ところで、本件賃貸借契約は昭和三三年三月一六日の経過とともに期間が満了したものであるが、賃貸借の更新があつたか否かについて検討する。

(一)  控訴人は賃貸借期間満了後も継続して本件土地を使用し、かつ被控訴人は控訴人が本件土地上に建物所有することを妨げたものであるからたとえ現実に建物が存在しなくても借地法第六条第二項の「建物があるとき」に該当すると主張するのでこの点について考える。

成立に争いのない乙第一号証乙第二号証、当審における被控訴本人の尋問の結果により成立の認められる甲第二号証の一乃至四、甲第三号証の一乃至四及び当審における被控訴本人並びに控訴本人の各尋問の結果によれば、本件土地は梯形で東西に細長くかつ南方に末広がりのようになり、北側の辺は一一・一七間、東側の辺は二・八六間、西側の辺は二・二一間であり、その北側と東側はそれぞれ道路に面し、控訴人は本件土地の南側に接して東京都文京区大塚町二四番地宅地一二八坪(以下控訴人所有地という)を所有しその東側は公道に面していること、控訴人は本件土地を斉藤株式会社から賃借後、右自己所有土地と本件土地にまたがつて、建物を所有していたが同建物は昭和二〇年五月頃戦災で焼失し、その後は両土地共、空地となつていたところ、控訴人は終戦当時本件土地と控訴人所有土地の留守番として同町内に住んでいた越尾熊一を右両土地内に当時残つていた防空壕に住わせたこと、戦災までは本件土地の北側に塀があつたが戦災でこわれたのでこれを改修し、越尾は右両土地を菜園などにしていたが、その後控訴人所有土地の一画に実測建坪一三坪位の建物を建築するに至つたため、控訴人は右越尾を相手どり、右建物の収去並びに控訴人所有土地及び本件土地の明渡の訴を提起し、訴訟係属中昭和三二年四月二一日控訴人所有土地一二八坪のうち三三坪二合二勺を除く部分の任意明渡をうけ、更にその他の部分については同年五月三一日東京高等裁判所で和解が成立し、これに基づいてその後しばらくしてその明渡をうけ本件土地と控訴人所有土地は全部控訴人の占有に帰したが両土地を区分するような物は何も設置しなかつたこと、控訴人は昭和三二年八月頃本件土地の北西角に同土地の北側に道路にそつてある塀に屋根を差しかけ建坪三、四坪位の大工の仕事場の様な仮小屋を造つたが、昭和三三年七月初旬には嵐のため屋根も壁もなくただ骨組が残つているにすぎなかつたこと、被控訴人は昭和三三年七月一三日賃料を控訴人に返送した後間もなく本件土地について仮処分執行をなしたこと、控訴人は本件賃貸借契約の期間満了後も本件土地の賃料を被控訴人に対し郵送したことが認められこれを覆すに足りる証拠はない。

しかして右認定の如く本件土地には建物はなく、隣接する控訴人所有土地とは明確に区分されておらず、本件土地北側の道路に面して存する塀により両土地が一体となつて囲まれ控訴人の管理下にある如き外観を呈していたこと、及び控訴人は期間満了後も本件土地に対する賃料を被控訴人に提供し同土地を引続いて賃借しているつもりでいたことからして控訴人において賃貸借期間満了後も本件土地の使用を継続していたものというべきである。

しかしながら、本件土地を越尾熊一が占有するに至つたのは控訴人が本件土地並びに控訴人所有土地の留守番として同人に依頼したことによるもので、このために控訴人において本件土地を使用するのを妨げられたとしても、このことについては何ら被控訴人を責めるべき筋合のものではないから、これをもつて被控訴人が控訴人の建物所有を妨げたというべきではない。

また、建物が借地上に存在するか否かは貸主が使用継続に対して異議を述べた時をもつて判断すべきところ、被控訴人の本件土地についてなした仮処分執行は被控訴人並びに引受参加人が主張する異議を述べた時以後になされたものであるから、仮処分執行のあつたことは同異議が適法か否かを判断するうえでは関係のないことである。

してみれば、右主張の異議当時までに控訴人において本件土地上に建物を所有することを被控訴人が妨げたものとは云えず、控訴人が期間満了後も継続して建物を所有していた場合と同一に解すべきであるとの控訴人の主張は採用できない。また本件土地上に存した右認定の小屋は賃貸借期間満了当時すでに骨組ばかりになつており、これをもつて建物があつたものということはできない。

(二)  つぎに、控訴人は本件土地は控訴人所有土地と一体となつて、控訴人所有土地上にある建物の敷地になつているから本件土地に建物があることになると主張するので、この点について考えるに、本件土地が控訴人が主張する控訴人所有土地上にある建物にとつて通常必要と思われる場合であれば、たとえ、本件土地上に建物が存しなくても借地法第六条第二項にいう「建物があるとき」に該当するものと解すべきところ、乙第二号証、当審における控訴本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人は昭和三二年四月二一日越尾から控訴人所有土地のうち一部の明渡をうけ、そこにその頃建坪二六・四八坪の建物を南向けに建築し控訴人の次男が居住するようになつたが、控訴人はその後更に控訴人所有土地の残余部分の明渡もうけたので右建物はあるが控訴人所有土地には尚相当の空地があること、また同土地の東側が公道に面しているため同家屋への出入などに本件土地は利用されておらず、本件土地がなくても同建物利用上何ら痛痒を感じないこと、控訴人が本件土地を賃借した当時から本件土地と控訴人所有土地は各々独立して登記されていたことが認められこれを覆すに足りる証拠はない、しかしてこの事実と前記認定の本件土地の地形並びに本件土地と控訴人所有土地の位置関係を合わせ考えると本件土地が右建物にとつて通常必要と思われる土地の範囲に属するものということは到底できず、したがつて、本件土地に建物があるとは云えないからこの点についての控訴人の主張も採用できない。

(三)  しからば本件賃貸借契約が更新になつたか否かは借地法第六条第一項にしたがつて判断すべきところ、控訴人が本件土地を本件賃貸借契約期間満了後も継続して使用していたことは前記認定のとおりである。

被控訴人並びに引受参加人は期間満了後の控訴人の本件土地使用に対し被控訴人から遅滞なく異議を述べたと主張するのでこの点について検討する。

被控訴人が控訴人に対し昭和三三年七月一三日到達郵便で控訴人が送付した賃貸借期間満了後の賃料を返送したことは当事者間に争いがなく、甲第一号証、成立に争いのない乙第一号証、原審における被控訴本人尋問の結果(第一、二回)当審における被控訴本人尋問の結果、原審並びに当審における控訴本人尋問の各結果(後記措信しない部分を除く)によれば、控訴人は本件土地を斉藤株式会社から賃借する際、賃貸借契約書を作成し、同会社に差入れ、控訴人も同内容の控を所持していたが被控訴人において同会社から本件土地を買受けるとき、同会社は保管していた契約書を紛失し、かつ賃貸借契約の内容を明確に知る社員も居なかつたため、被控訴人はいつ期間が満了するのかについては知る由もなかつたこと、被控訴人は買受後間もなく登記も了し、その後、賃料改訂や、契約内容が不明であるためこれを改めて明確にしておこうとの意図のもとに再三にわたつて控訴人と折衝したが、全く受けつけてもらえず、控訴人からは従来どおりの賃料を数ケ月分ずつまとめて郵送をうけていたこと、最初のうちは被控訴人は控訴人が新たに契約を締結することに応じればたとえ期間が満了してもその後も引続いて賃貸してもよいと考えていたが、全く問題にされないので、右のような考えを改め、期限が来れば明渡を求める以外に方法はないと考え、そのためには既存の契約による賃貸借期限を知る必要があるので斉藤株式会社に契約書を探してくれるよう依頼すると共に、控訴人に対しても何回か教えてくれるよう頼んだが、控訴人は知つていながら記憶がないなどと言訳をいつて教えなかつたこと、かくしているうち、昭和三三年七月初に至り契約書が斉藤株式会社の方で発見され、賃貸借期間は同年三月一六日をもつてすでに満了していることをはじめて知つたこと被控訴人はその頃控訴人から郵便為替で送られて来た期間満了後の数個月分の賃料をそのまゝ現金化せず保管していたところ、右期間満了を知るやこれに「貴殿にお貸ししていた文京区大塚町二五番地の拾の借地権は最早なくなつているため折角地代御送付下さいましたが、御返し致しましたから御査収下さい」と記載した書面をそえて控訴人に対して郵送し、これは同月一三日到達したことが認められ、当審における控訴本人の尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかして、右認定の如き経緯の後右の如き内容の書面と共に期間満了後の賃料を返送した場合は土地所有者たる被控訴人において、賃貸借期間経過後の控訴人の本件土地使用継続を欲せず、更新をしない旨の意思表示をなしたものと解すべく、また右異議は期間満了後約四箇月を経つてから述べられたものであるけれども被控訴人において賃貸借期間が満了したのを知らず、かつ右認定の事情からしてこれを知らなかつたことに過失があつたものとは云えず、むしろ控訴人において賃貸借期間を知りながら教えなかつたことは信義則にも反しこれがために被控訴人は早期に異議を述べる機会を失つたものとさえいうべく、また被控訴人は賃貸借期間が満了していることを知つてからは一〇日間位で右異議を述べたものであることを合せ考えると本件異議は遅滞なく述べられたものと解するのが相当である。

なお控訴人は期間満了後も賃料を被控訴人において受領していたと主張するが右認定の如くこれは郵便為替で郵送されたものであり、かつこれを現金化することなくそのまま返送されたこと、その他以上の如き事実に照らしてこれをもつて被控訴人において黙示的に契約更新を承諾していたものとは到底云えない。

してみれば、本件賃貸借契約は期間の最終日である昭和三三年三月一六日の経過とともに終了したこととなり、控訴人は本件土地を占有している(この点は当事者間に争いがない)が、その権原がない。

四、つぎに、被控訴人並びに引受参加人の損害金の請求について判断するに、前記の如く控訴人は賃貸借契約終了後も引きつづき本件土地を占有していたものであるが、当審における控訴本人並びに被控訴本人の各尋問の結果によれば本件土地を被控訴人において材木置場として使用していることが認められ、この事実と当裁判所に顕著な被控訴人は原審において仮執行宣言付きの勝訴判決を得た後、昭和三六年三月八日執行力ある正本の交付をうけたが、同判決に対して執行停止決定はなされなかつた事実を合わせ考えると右被控訴人は右執行力ある正本の交付をうけた後、これに基づいて本件土地明渡の執行を終了したことが推認される。しかし、右執行がなされた日がいつであるかについてはこれを明らかにする証拠はない。してみれば、被控訴人が右執行力ある正本の交付をうけた日の前日である昭和三六年三月七日までは控訴人において本件土地を占有し被控訴人の所有権を侵害し被控訴人に対し相当賃料額の損害を与えていたことは明らかであるが、翌八日以降については被控訴人並びに引受参加人が本件土地の利用を控訴人によつて現実に妨げられこれによつて損害を被つたことの証明がないことに帰し、同日以降の損害金の請求は理由がない。(控訴人は本件土地の占有を自白しているが、このことは損害の発生までも自白したことにならないから右結論を左右するものではない)

本件土地の相当賃料額について被控訴人並びに引受参加人は一月五〇〇円であると主張するところ、被控訴人が訴訟物の価額算定の資料として訴状に添付して裁判所に提出した「固定資産課税台帖登録証明申請書」と題する東京都文京税務事務所長荻野泰の証明した書面によると本件土地の昭和三三年度の評価格は一六四、七二二円であり、これを基礎に本件土地の賃料が地代家賃統制令の適用をうける場合を仮定して計算した統制賃料額は一月四九四円を下らないこと、同統制令の適用がない場合の額は同金額よりかなり高額であることは顕著な事実であることからして昭和三三年三月一七日以降の本件土地の相当賃料額が少くとも被控訴人主張のとおり一月五〇〇円であつたものということができる。

そうすると、控訴人は被控訴人に対し損害賠償として昭和三三年三月一七日以降昭和三六年三月七日まで一月五〇〇円の割合の金員を支払い、引受参加人に対し本件土地を明渡す義務があり、控訴人並びに引受参加人の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容すべく、その余は理由がないから棄却すべきである。

そうすると、原判決は右結論と一部符合せず、その限度で本件控訴は理由があるから、原判決を変更すべく、訴訟費用につき民事訴訟法第九五条第九六条第九二条を、仮執行につき第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西山要 中川哲男 岸本昌己)

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